過度なリスクマネジメントが新規事業の失敗確率をあげてしまうケースがある。
ただでさえ新規事業というのは成功確率は低い。センミツである。それを大きな組織で実行する時に、リスクマネジメントという名のもとに、さらに自ら成功確率をじりじりと下げていくような集団行動を取ってしまうケースを、残念ながらよく見かける。
僕はそれを、新規事業における「リスクマネジメント・リスク」と呼んでいる。皮肉なんだけど。
過去、新規事業企画の部署で自分自身、担当者として、そして事業責任者として長く携わっていた経験から、また、ディレクターバンクとして他社の新規事業の立ち上げを外側から支援する立場として、様々な「リスクマネジメント・リスク」だと思うような事象に出会ってきた。
それらを事象の一片を紹介するとこんな感じである。
・法務などのバックオフィス部門やカスタマーサポート部門から、従来事業のリスクマネジメントの経験値から、新規事業の将来起こりうるかもしれない問題の可能性を指摘され、現場の施策が骨抜きにされてしまう。
・経営陣から総論は賛成されているのに、各論でリスクマネジメントの視点で細かい条件や質問が出てきて、なかなかGOサインがもらえない。
まさに大きな組織で新規事業をおこなう上でのあるある話である。
リスクマネジメントというのは、あくまでリターンと表裏関係にあるリスクを適切に認識していくことであり、決して事前にリスクを潰していくことではない。そうすると当たり前だけど、リターンがなくなってしまう。
ただし、新規事業の場合は、リターンがまだ明確ではないケースが多いため、リスクはその時点では単なるリスクにしか見えない事が多く(それでどれくらいのリターンが見込めるものか説得できない)、マネジメントにかかわるバックオフィス部門から言わせると、「面倒な仕事を作るのはやめてほしい」と思ってしまうのだろう。(それはそれでもちろんわかる)
結果、新規事業は骨抜きにされたり、いろんな活動にリスクマネジメントチェックのワークフローが作り出され、ひとつひとつの作業に膨大なコミュニケーションコストがかかり、結果、ひとつひとつの打ち手をスピーディーに市場に出すことができなくなる。
そんなシステムの中で、みんな真面目に自分の持ち場の仕事をしているのだけど、それが総じてみんなで新規事業の可能性をさらに潰していっているような、ディストピア的な世界を作り出してしまっている。
正直そうなれば、誰一人、新規事業でリターンを得れるなんて、本気で信じていない状態になっているのかもしれない。
今、僕は自分で会社を経営するようになって思うのだけど、その現象ってのは、明らかに経営の怠慢が原因だと思っている。
新規事業というのは、本質的にはそれは自分たちの事業なんだという、「ビジネスオーナー」のマインドを持っている人間じゃないと立ち上げられない。
それは経営者が率先して自分事としてリスクを取ることであり、現場でビジネスオーナーのマインドを持った社員に権限を与え、その活動を守り続けることである。
そもそも、新規事業という完成されていないビジネスモデルに関しては、機能的な形で構成された各部署との分業では、ロジックが出来上がっていない分、コミュニケーションコストが膨大にかかるのは当たり前である。しかもロジックがない分、新規事業を推進する側の立場はとても弱い。
そのためには、特区的な形で新規プロジェクトのメンバーの中で、すべての業務の意思決定と実行ができる形にするのが理想であり、そこを守り続けるのが経営の大切な役割なんだろうと思う。
「日本」というレベルで見渡しても、今までのビジネスモデルが大きな転換点を迎えている今、過去からの前例にとらわれない、新しい特区(オルタナティブなスペース)をどんな形で積極的に創っていけるかが、リスクマネジメント・リスクからの呪縛を解く鍵になってくるんじゃないかな、と僕的には想像している。(最後は大きく出てみた)
ちなみに、社内で新規事業を立ち上げる際に、担当者としてどのようなポイントに注意しながらプロジェクトを進めていくべきか、5つのプロセスに分けて紹介した記事もあるので、よかったらどうぞ。