見積もりのズレのなくし方

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Web業界に長いこといると、クライアントから見積もり依頼を受けたり、パートナーに見積もり依頼を出したりする経験値はかなり蓄積される。

そして、これらの経験を通じて感じるのは、つくづく見積もりを依頼する能力って、大切なスキルだなぁ、ということである。

見積もりの依頼の仕方によって、金額や条件は平気で変わる。

それだけに「見積もりのやりとりをする」という行為は、よくもめるステップでもある。

見積もりをめぐるもめごとは、人類が商取引を始めた瞬間から発生していただろうし、21世紀になった現代においても相変わらず発生し続けている。

なので、「見積もりのズレをなくす」というのは、今や人類共通の解決すべき課題なんじゃないかな、とすら思う。この課題をクリアするメソッドが発明されれば、かなり人類に貢献できるんじゃないかと思う。

今回は、そんな壮大な志をもって、どうすれば見積もりのズレをなくすことができるのか?というテーマについて、僕なりの仮説を書いてみたいと思う。

見積もりとは?「その時点で想像する未来の目安」である。

見積もりとは、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、という3点をまとめた現時点での目安である。

受注する側は、発注者側の依頼内容をヒアリングし、この3点に落とし込んで見積書を作り、発注者に提示する。

そこで、高いの安いのと調整が入り、金額の折り合いをつけていく訳である。

ここで大切なのは、これはあくまで「その時点で想像する未来の目安」であり、実際の未来は違うかもしれないということである。

そして、「その時点で想像する未来の目安」が、同じレベルの想像力で受注者と発注者の間で共有できるかどうかが、大切なポイントなんだと思う。

この想像が共有できていないと、「えー、その作業ってそんなに工数かかんないと思うんですけど〜」的なやりとりが発生して、それぞれが想像する「自分が想像している未来」対決が展開されてしまう。

言わずもがなだけど、そのやりとりの中に正解はない。だって、それはまだ現実になってないのだから。

結局、取り引きって、Win-WinかLose-Loseの二択しかない。

例えば、発注者として、見積もり交渉でうまく値下げが成功しても、結果、相手のやる気をさげてしまって、いいアウトプットを引き出すことができなければ、その取り引きは失敗である。

つまり見積もり交渉のWin-Loseは、結果、アウトプットのLose-Loseにつながる。

なので、僕は、ビジネスの取り引きにおいて、Win-Loseというのは基本存在しないと考えている。

取り引きをする以上、一蓮托生なのだから、そこには、Win-WinかLose-Loseしかない。

今、自分が行っている見積もり交渉は、Win-Winに向かっているのか、Lose-Loseに向かっているのか、冷静に判断する必要があると思う。

仮説:Win-Winに向かうためには、「見積もりコミュ力」をあげる必要がある。

Win-Winの関係を目指すためには、「見積もりコミュ力」をあげる必要があると僕は考えている。

これは特に、発注者側に大きく依存する能力である。発注者側の「見積もりコミュ力」によって、その取り引きは、Win-Winにもなり、Lose-Loseにもなってしまう。

経験のある受注者の場合、見積もり交渉の時点で「あ、これはLose-Loseモデルになりそうだな」と感じた時点で、最小限の出血で抑えようという意識が働く。(もしくは見積り依頼には応じない)

そうなった時点で、できるだけミニマムなアウトプットと小さな金額で、早く取り引きを終わらせようとするマインドになり、結果、小さなアウトプットしか発注者は得られない結果で終わってしまう。

そんなLose-Loseを避ける意味でも、発注者には「見積もりコミュ力」が必要になってくるのだと思う。

見積もりコミュ力とは?やりたいこと、やってほしいことを具体的に伝え、一緒に仕事がしてみたいと思わせる力

僕が考える「見積もりコミュ力」とは、

「その時点で想像する未来の輪郭を具体的に伝える力」であり、

「受注者にとって、その中でどんな仕事をすべきか具体的に想像させる力」であり、

「受注者が自分と一緒に仕事をしてみたいと興味を持ってもらう力」なんじゃないかな、と考えている。

「見積もりコミュ力」を上げていくことは、見積もりのズレをなくすだけでなく、高いレベルのパフォーマンスが出せるプレイヤーと仕事をするきっかけにもなると思う。

いい仕事をする人は相手を選ぶ。見積もりが「その時点で想像する未来の目安」であれば、同じレベルの未来の目安(=目指したい価値)が想像できる人と一緒に仕事をしたいと思う。

見積もりコミュ力を上げると、見積もりコミュ力が高い人同士での商流が生まれやすい。結果、コストパフォーマンスの高いアウトプットを生んでいく確率が高いため、継続的な取引に繋がりやすくなる。

見積もりコミュ力をあげるための4つの取り組み

「見積もりコミュ力」をあげるためには、具体的に、以下の4つの取り組みをベースとしたコミュニケーションをおこなっていくといいと思う。

1.目的、背景、課題を伝える。

なぜ、今回見積り依頼することになったのか、その目的、背景、クリアしたい課題を伝えると、単なる作業ではなく、課題解決のための見積もり提案がもらえるきっかけとなる。

目的:どういった目的のプロジェクトなのか?何にチャレンジしたいのか?

背景:どういった背景があって、今回依頼することになったのか?

課題:今回の依頼で何を解決したいと考えているのか?

2.できるだけ条件を文書にして提示する。

当たり前だけど、受注者は、発注者がどこまで依頼する業務内容自体をそもそも理解しているのか、チェックしている。

ここで曖昧な依頼内容を出しているようだと、受注者としては「この人、あまりわかっていないから、コミュニケーションコストがかかるな」フラグがたち、結果、バッファを積んだ見積もりを出さざるを得なくなる。

見積もりの中でいう「工数」とは、手を動かすだけの時間では構成されていない。プロジェクトによっては、コミュニケーションの時間のほうが圧倒的に多いものもある。

そういった意味で、依頼する業務内容をできるだけ明確にしていくスキルはとても大切なんだけど、一方で、わからない場合は、正直に「よくわからないので、そこから手伝ってほしい」とはっきり伝えることも、見積もりコミュ力を上げるポイントだったりもする。

具体的には、ネットで検索すると、RFP(見積り提案依頼書)のサンプルがいろいろあると思うので、とりあえず自分の案件に近そうな事例のRFPサンプルをダウンロードして、できる限りその項目を埋めてみる、ということである。

そのRFPを使って相手に条件を提示した上で、埋められない項目については、正直に、この項目はまだわからないです、ということを伝えることも、相手にとっては貴重な情報になるはずである。

わかっていること、わかっていないことををはっきり伝えること自体が、コミュニケーションコストをさげ、結果、精度の高い見積書を作ってもらうきっかけとなる。

3.サンプルを提示する

自分が考えているアウトプットのイメージに近いものがすでに世の中にあるのであれば、それをサンプルとして提示しておくことも大切である。

特にデザイン系の依頼だと、抽象的なやりとりが続いて不毛なコミュニケーションが発生しがちである。

自分のイメージに近いものを1〜2点、素材として出しておくと、相手もやりたいことが理解しやすくなるし、何より不明確な部分が少なくなって、見積もりがしやすくなる。

4.優先順位をつけておく

何を最も重視するか(金額か、納期か、内容か)優先順位をつけておくこと。

また、お願いしたい内容をさらに分類化して、Must、Want、予算次第といったレベルで優先順位をつけておくことも、その後の見積もりのズレをすり合わせていく調整弁としてあったほうが楽である。

それにともって、どこまで自分たちがやって、どこからの役割を外注したいのか、役割分担の線引もきちんとイメージしておくことも大切である。

まとめ:発注者も見積もられる時代へ

従来のイメージだと、発注者が立場が上で、受注者が立場が下という、上下関係の意識が強かったが、この構図も徐々に変わりつつある。

インターネットによって、商取引がオープン化され、発注者、受注者ともに仕事をする相手の選択肢が増えた結果、受注者にとっても、仕事をする相手を自らの意志で選択できる機会が増えてきたのがその背景にあると思う。

さらに、ITエンジニア、Webマーケターなどの専門家の場合は特に、需要と供給のバランス的に、その傾向が強まっていると思う。

上下関係から、対等な協業関係へ。

これからの時代、発注者は、見積もり依頼と同時に、受注者から、協業パートナーとしての価値を発注者自身も見積もられている、という意識を常に持つことがとても大切だと思う。

いいパートナーといかにいいアウトプットを一緒に出していけるか?

繰り返しになるが、取り引きをする以上、一蓮托生なのだから、そこには、Win-WinかLose-Loseしかない。

今後、そういった意識を持った上で、自らの見積もりコミュ力を高めていくことが、見積もりのズレをなくすだけでなく、そもそもいいパートナーを見つけるための大切な1stステップになっていくのではないかなと思う。

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