ディレクターバンクでは、デジタルマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメーション)の視点から、さまざまな業種のお客様の新規事業立ち上げを支援させていただいている。
その経験を通じて、社内新規事業立ち上げでうまくドライブしないプロジェクトに共通する問題点を、「社内新規事業立ち上げでよくある5つの壁」という形で、僕なりにまとめてみた。
多くのうまく行っていない社内新規事業立ち上げプロジェクトは、これらのどれかの壁の前で立ち往生しているケースが多いように感じている。
自社の新規事業の立ち上げが思うように進まないと感じている方や、新規事業企画担当者、または経営サイドの方は、ぜひセルフチェックとして参考にしていただければ幸いである。
社内新規事業立ち上げでよくある5つの壁
1. 自分事の壁
まず最初の壁は「自分事の壁」である。
新規事業の現場担当者が、そのプロジェクトをどれだけ自分事として取り組めているかが鍵になる。
「自分は企画担当者で、実行は他の人がやる」とか、「上から言われたので、わかる範囲でやっています」といった姿勢では、新規事業プロジェクトは早々に立ち行かなくなる。
担当者自身が心から情熱を持って取り組める動機づけができているか、まずここを検証する必要がある。
チェックポイント:
- なぜこの事業をやりたいのか、自分の言葉で説明できるか。
- 困難な状況でも粘り強く取り組む覚悟があるか。
- 自分のキャリアや成長にこのプロジェクトがどう関与するか理解しているか。
2. 社内風土の壁
次に直面するのが「社内風土の壁」である。
本当に新規事業を自社から生み出そうとする、社内風土という「土壌」があるかどうか。
良い土壌がなければ、どんなに良い種があっても芽が出て育つことはできない。
プロジェクトオーナー、つまり決裁者や経営者からの前向きな支持が取り付けられているか?
プロジェクトオーナー自身もその新規事業を自分事として捉え、積極的に関与しているかどうか。
批評家のようにコメントばかりするだけでは、プロジェクトは前に進まない。
社内全体で新規事業を支える風土が醸成されているか、ここが大きなポイントになる。
社内新規事業の土壌を作る社内風土については、こちらの記事も参考になるのであわせてどうぞ。
チェックポイント:
- チャレンジを推奨する社内風土があるか。
- 新規事業プロジェクトを通じて、会社自体も変わろうとする覚悟を経営者が持っているか。
- 新規事業に対する社内の理解と期待値が共有されているか。
3. 決断の壁
新規事業を進めていく中で、必ずと言っていいほど「決断の壁」にぶつかる。
自己矛盾や他部署との摩擦、整合性の取れない部分が出てくることは避けられない。
初めてのことだから、計画通りに進まないことも多い。
しかし、その都度、修正判断を下して前に進めるかどうかが重要である。
戦略や企画の議論ばかりで実行に移さない組織は、結局何も生み出せない。正直、事前の市場調査や戦略仮説の資料化に時間をかけている組織はかなり危険である。
新規事業の立ち上げは、常に決断し、実行に移す勇気が求められる。答えは社内議論ではなく、現場の顧客が持っている。
チェックポイント:
- 不確実性の中でも迅速に決断できるか。
- ミスを恐れずにチャレンジする文化があるか。
- 必要な時に上層部から迅速な承認を得られるか。
4. 現場の壁
「現場の壁」は、新規事業の成否を左右する重要な要素だ。
最初にやるべきは、一人の顧客を見つけることである。
そのためには、現場に足を運び、直接顧客候補に会って対話を重ねる必要がある。
プロダクト・マーケット・フィット(PMF)を見つけるには、この地道な作業が欠かせない。
しかし、この作業を億劫に感じる新規事業企画担当者(特に現場経験がない人)は多い。
ここを乗り越えることで、初めて本当に価値のある事業が生まれる。
有名な投資会社であるYコンビネーターのアドバイスに「Do things that don’t scale(まずスケールしないことをしろ)」というものがある。
これは、最初は非効率でも直接顧客と向き合い、深く理解することで、後にスケールする事業が生まれるという意味である。
チェックポイント:
- 直接顧客と対話し、ニーズを深く理解しているか。
- 現場のフィードバックを迅速にプロダクトに反映しているか。
- 初期段階での泥臭い活動を厭わず行っているか。
5. やり切る壁
最後は「やり切る壁」、つまりGRIT(やり抜く力)である。
ありがちなケースとして、少し試してPMFが見つからなかったからといって、すぐに方向転換(ピボット)してしまうことがある。
もっと深く掘り下げれば良いのに、というケースだ。
これは、どこまで現場に踏み込んだかという「現場の壁」にも関連するし、結局、自分事としてどれだけ真剣に取り組んできたかという「自分事の壁」にもつながる。
困難に直面したときに、粘り強く取り組み、やり切る力が求められる。
既存業務のかたわらで、新規事業プロジェクトを兼任で行うといった体制でプロジェクトを進めている場合、個々の担当が「既存の業務が多忙さ」を理由に新規事業に浅く関わっているケースなどは、この壁にぶち当たることが多い。
チェックポイント:
- 一定期間、集中して取り組む覚悟があるか。
- 失敗から学び、次に活かす姿勢ができているか。
- 長期的なビジョンを持ち、短期的な結果に一喜一憂しない覚悟があるか。
以上が、社内新規事業立ち上げでよくある5つの壁である。
僕自身も、これらの壁に何度もぶつかってきた。
社内新規事業と、自分で独立して起業するのと、どちらが大変だろうか?
どんなビジネスをしたいかによって一長一短あると思うけれど、社内新規事業は、自分で独立してオーナーシップを持って立ち上げる起業と比べて、顧客開拓をしながら社内調整もしていく、二つの視点を持ちながら活動していかなくてはいけない分、正直大変だと思う。
しかし、うまく振る舞えば、会社の看板や商流を活用して、自分一人の起業ではできない大きな広がりを作れる可能性がある。
何より、その取り組み自体が成功しようが失敗しようが、自分自身の大きなキャリアとなり、自信になる。
もし会社で新規事業立ち上げプロジェクトを実行する機会をもらえるのなら、失敗しないようにちまちま進めるのではなく、いい機会だと思って、可能な限り思いっきりバットを振ってほしいと思う(僕的な性格としては)。
そして、もし新規事業を進めていくにあたって相談相手がいないようでしたら、ご相談いただけると幸いデス。