人は思いがけないところで励まされることがある。
そして、男性の公衆トイレで出くわす「一歩前進」という言葉に、少なからず励まされている人がいるのではないか、と密かに僕は想像している。
「一本前進」。それは男の小便器の付近にテプラで作成されて張り出されているメッセージである。
考え事をしながらトイレに入った時に、この言葉が目に飛び込んできて、「一歩前進かぁ」と頭の前で反芻したところで、「そっか、一歩前進だよな」と、ちょっとした勇気をもらった経験が僕には何度かある。
毎日、日本国内で何十万人とか何百万人とかの規模で、「一歩前進」のテプラを公衆トイレで見ている人がいると思うけど、そのうち少なくとも1%くらいの人は、そんな感じで、トイレに入る前に持っていたネガティブな気持ちがポジティブな気持ちに切り替わっているんじゃないかな、と僕は勝手に推測している。
トイレという空間は、特別な空間である。
当たり前だけど無防備で、素の自分に向き合う、数少ない時間でもある。
どんなに偉い人も、どんなに上手くいってない人も、その時間だけは平等に訪れる。
そして無防備であるがゆえに、そこで出会った当たり前の言葉に、予想もしない勇気をもらうことがある。
「一歩前進」。トイレに張り出されていなければ、なかなか自分の頭の中でつぶやかない言葉である。
そこには、どんな人もポジティブにすることができる、力強いエールが込められている。
「一歩前進」。とにかく前へ進むのだ。考え込んだり、立ち止まったりしている場合ではない。一歩でもいいから、前進するのだ。
僕はそんな「一歩前進」のテプラが結構気に入っている。そして、そんな「一歩前進」のテプラに陰ながら勇気をもらっている人は、僕だけじゃないはずだと思っている。考えてみれば、かなり強力な応援メディアである。
もちろん、メッセージを作成した側に、そんな意図がないのは百も承知である。同時にトイレは綺麗に使おうといつも心がけている今日この頃である。