他社との差別化って、無理なんだから考えるのは止めておこう。

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サラリーマン時代、新規事業の立ち上げ部署にいた頃のことをよく覚えている。役員会で企画をプレゼンすると、決まって「他社との差別化は?」と質問が飛んできた。

僕なりに差別化ポイントを説明しても、「そこは本当に差別化要素になるのか?」「弱いのでは?」といったコメントが返ってきて、議論ばかりが続き、なかなか前に進まなかった淡い思い出がある。

マーケティングの教科書には「他社との差別化が大切」と必ず書いてある。それ自体は間違っていない。でも今の僕の考えとしては、それはあくまで“結果”として語るべきことで、最初から差別化を考えるのは無理があるんじゃないかと思っている。

最近、あるコンサルタントの方がこんな話をしていた。

「起業アイデアが浮かんだらまずググれ。すでに同じことをやっている会社があったら、それは正解。やるべき。誰もやっていなかったらやめておけ。たぶん成立しない。」

この話を聞いたとき、妙に腑に落ちた。成功している企業には成功するだけの理由があり、そこには再現性のある“型”がある可能性が高い。その理解をすっ飛ばして、最初からオリジナルで勝負しようとするのは無謀に近い。

だからこそ、まずは徹底的にマネる。そのプロセスを通じて、顧客のニーズやビジネス構造が立体的に見えてくる。差別化はその後でゆっくり考えればいい。市場や競合、顧客への理解なしに、まともな差別化は生まれない。

日本の茶道や武道には「守破離」という修行プロセスがある。

  • :先生の型を忠実に守り、まずはマスターする
  • :習得した型を土台に、自分に合った形を探り始める
  • :型に囚われず、自在な境地へ進む

新規事業も同じだと思う。まず「守」から始めるほうがどう考えても近道だ。

新規事業に必要なのは、想像力や“自分の我”よりも、自分のプライドを捨てた素直さと、先人をトレースする力だと思っている。

「守」を丁寧にやり切ると、市場や競合、顧客理解が自然と深まっていく。そうすると、

「もっとこうすればお客さんが喜ぶんじゃないか」
「こう改善したら現場が少し楽になるんじゃないか」

といったアイデアが湧いてくる。

こうした小さな気づきと試行錯誤の積み重ねが、やがて実績として“差別化”になり、守破離でいう“破”に近づいていく。

差別化とはあくまで結果論であって、自分の事業に対するこだわりとか改善仮説が、顧客やステークホルダーに支持されれてきた取り組みの歴史みたいなものなんだと思う。ジャストアイデアで作れるようなものではないと思う。

正直、先人たちが普通にやっていることをトレースするだけでも相当大変である。やってみて初めて分かることばかりだし、気づきも多い。そのうえで、自分なりのこだわりやアイデアを小さく試していくと、事業が少しずつ自分のものになっていく。

それが新規事業のリアルであり、本当の意味での差別化につながっていく道筋なんだろうな、と最近感じている。

机上の「差別化」を考える前に、まずはその市場に入って、顧客と対話する経験を積むのが先決。そんな風に最近考えている。

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