人は対比でしか評価を決められない。
だから人に何かを提案する時には、対比できるものを用意して、自分が提案したものを採用しやすくする環境を用意することも大切である。
そのひとつの方法が、見せ球と決め球の2つの案を提示する方法である。
見せ球の提案で相手の関心を高めた後に、決め球の良さを演出して採用してもらうというやり方である。
しかし、この方法ももちろん万能ではない。
僕の経験上、この方法でよく陥りがちな失敗が大きく2パターンある。
一つ目は、見せ球と決め球の差がわかりづらい場合だ。
この場合、味方も混乱に陥れてしまうため、味方の援軍が得られずにその場が一気に無秩序な状態になる。
昔、よく見せ球の提案を二球、元気よく投げる同僚がいた。
二球投げきった後、僕が「あれ、決め球は?」と驚いた表情を向けると、彼は「今のが決め球でした」と残念そうなアイコンタクトを返すことがよくあった。
その後、僕たちは何事もなかったかのように、「さて、これからどうやって進めていきましょうかね」みたいな段取り論に話を移しながら、今さっきの提案がなかったかのように、次回の「本当の提案」を行う機会を得る段取りをして会議を終わらせるのがせいぜいだった。
二つ目は、見せ球が思いのほか良く映ってしまい、決め球を出す前に相手が見せ球を採用してしまう場合だ。
この場合、全くそのシナリオを実現する準備をしていないので、選ばれた後でとても大慌てになる。
昔ウェイターのバイトをしていたレストランの看板メニューに、誰も頼まない高級なサーロインステーキのメニューを掲載していたことがあった。ある日、本当に頼んできたコワモテの客がいて、僕がその客から取ったオーダーを厨房に通すと、スタッフ全員が「マジかよ」と一斉に驚いたことがあった。その店にとっては完全な「見せ球」メニューだったので、そもそも食材を仕入れていなかったのである。
結果、慌てたチーフがすぐさま近所の肉屋にステーキ肉を買いに行った。
見せ球と決め球は、その通りになればこしたことはないが、実際は相手がそう思っていないことも多々あるので注意が必要である。
というか、そもそも、テクニックに走っている時点で姑息である。