今までのその人の人生が、事業モデルを決定するという話

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前職の会社で、経営メンバー育成を目的とした社外研修を受けさせてもらったことがある。

その際、「創業者のそれまでの人生の歩み方が、会社の事業モデルを決定する」という興味深い講義を受けた。

研修で紹介された具体的な事例は、複数の紳士服メーカーの創業者の事例だった。

一見同じように見える紳士服メーカーでも、なぜ事業モデルやこだわりポイントが大きく異なるのか?

それは、それぞれの創業者のそれまでの人生の歩み方を辿っていくことで、それぞれの事業モデルやこだわりのポイントが、何らかの「成功体験」に紐解いていることがわかる、とても興味深い講義だった。

ここで言う、「成功体験」というのは、MBA的な成功メソッドというより、どちらかというと、創業者自身が「働くことの何に面白みを感じたか?」という属人的な感情である。

一方で、どの創業者のケースにおいても、MBA的な成功メソッドは後付け(もしくは、たまたまやっている途中で出会えたという偶然的なもの)だったという点も興味深かった。

そして、今、自分が会社を経営する立場になったのだけど、時々、この時の話を思い出す。

確かに、自分の会社を含め、仕事上出会う会社には、創業者のそれまでの人生の歩み方やそこで身につけた考え方が、その会社の事業モデルだけにとどまらず、会社の組織風土、意思決定プロセスにも色濃く反映されていることを目の当たりにする。

なので、僕自身、新しい会社の方とお会いする時は、この会社の代表者はどんな経歴を歩まれている方なのか、自然とチェックする癖がついている。

逆に言うと、会社の事業戦略やビジョンで書かれている言葉を眺めるより、その代表者の経歴を見たほうが、どんな事業展開を今後志向しているか、何を強みとして事業展開されているか、想像しやすい。

基本的なレベルではあるが、例えば、創業者、代表者の経歴からその会社の雰囲気を紐解くヒントは、以下のような感じになる。

過去に人生観を変える出来事に直面して、そこから起業を志向している創業者は多い。

例えば、自分自身の生死をさまよう経験や、もしくは身近な方の不幸な出来事など。

そこで何を感じ、考えたかが、起業の動機に繋がっている。経営で最も大切にしている価値判断、行動原則もそこに紐づいていてたりする。

本人もそんなエピソードを積極的に公開して、自身の事業に対する想いを語っているケースも多かったりする。

今までやってきた仕事の進め方や立ち位置が、そのまま創業する会社の核を形成している。

当たり前だけど、創業者が営業マンだったら、営業系の会社。開発者だったら、開発系の会社になる。

この場合、創業者の元々の職種の部署がその会社でもメインストリームの部署(強みの源泉)になり、他は非主流の部署という構成の会社になりがち。

創業者の成功体験や成功法則が、必ずその会社の強みやこだわりポイントに息づいている。

営業で実績を上げた創業者が作った会社は、その営業手法自体が強み。サービスを開発して成功した創業者が作った会社は、そのサービス開発力が強みになる。

会社の現在の代表者の属性が、創業社長かサラリーマン社長か。

前述する会社の風土や強みの話は、創業社長のケースがほとんど。

サラリーマン社長の場合は、その人のオーナーからどんなミッションを与えられてそのポジションについているかで、事業展開が異なる。(その人のオーナーの経歴を見たほうがいいかもしれない)

以上が、基本的なレベルではあるが、創業者、代表者の経歴からその会社の雰囲気を紐解くヒントである。

一方で、視点を変えると、一朝一夕に会社の事業モデルとか組織風土を変革するのは難しい。

それらは、合理性やロジックといったものから派生しているものではないからだ。

創業者がある程度作り上げてしまっているので、株主(オーナー)が変わらない限り変革するのは至難の業である。

上場する場合は、創業者がいなくなっても継続的な事業運営が可能な組織作りを株主から求められるので、そこで良くも悪くも創業者のアクが抜けていくのだが、上場しない企業は、だいたいが、創業者が作ったままの事業モデルや行動原則がそのまま引き継がれていく。

なので、上場しない場合、どこまで創業者が作った事業モデル上で、その会社が存続していけるか?というのが、会社経営上の最大の課題となり、会社が成長すればするほど、一方で、創業者の存在自体がリスクとして膨れ上がる構造になる。

いつか、その創業者の器の限界と、市場のライフタイムサイクルによって、成長が止まったり、売上減少に転じるかもしれない。

もし会社を存続させたい場合、そんな兆候が訪れる前に、次の経営者にバトンタッチしていくことが、創業者の最後の仕事になると思うのだけど、これが一番難しい仕事になるのだろう。

これはバトンを引き受けた、次の経営者の視点に立ったとしても、まったく同様である。

何を引き継いで、何を捨て、何を新しく築いていくべきか?

このあたりの考察については、まだ僕自身の中にはこれといったものはない。ただ単に、それは、すごい難しいんだろうなぁ、と想像している。下手をすれば、創業するより、二代目社長として会社を引き継ぐことのほうが難しいのかもしれない。

そして、巷で賑わっている某ニュースに、このあたりの悲哀を個人的には感じずにはいられない今日この頃だったりもするのであった。

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