僕は昔、ニフティ株式会社という老舗のインターネットプロバイダーの会社で働いていた。
中途入社した1996年当時は、まだパソコン通信のNIFTY-Serveというオンラインサービスを提供していて、日本でNo1のパソコン通信事業者だった。
ニフティは僕にとって貴重な学校だった。
当時のニフティは、接続事業もコンテンツ事業もインターネットにシフトしようとしていた矢先で、僕はその中で新規のインターネットサービスの企画部署に配属され、様々な「新規モノ」の立ち上げ業務に関わらせていただいた。
同僚との昔話ではどうしても「あの頃は良かったよね」という話になりがちなんだけど、お世辞抜きで、今の僕がいるのは、ニフティに育ててもらったおかげだと感謝している。
昔、ある上司に言われたことがある。
「自分の人生にライフサイクルがあるように、会社にもライフサイクルがある。その2つのライフサイクルがうまくかみ合っていればお互い幸せだ」と。
中途入社した当時の20代の僕は、それこそ経験値が少なく、何でも挑戦してみたい、そして結果を出して認められたい、という自己承認欲求の塊みたいな人間だったと思う。
そしてそんな僕を受け入れてくれたニフティも、パソコン通信からインターネットにシフトするタイミングで、次の新しい成長をめざしていたタイミングだった。
僕とニフティは、ライフサイクルがあっていたのだと思う。
そんなニフティという会社は、僕にとっての貴重な学校でもあった。
自分が成長できる会社とは?
当時の自分に当てはめて想像すると、僕は、人が会社組織の中で成長するためには、以下の条件が大きく影響するんじゃないかな、と思っている。
1.成長している段階の会社であること。そこで、いろんな未知の経験させてもらう機会に恵まれていた。
ノウハウを持っている先輩から学べることもあったけど、どちらかというと、誰も答えを知らない未知の領域の経験をさせてくれる価値のほうが自分の成長には大きく影響したように思う。
2.同じテンションで試行錯誤の挑戦に付き合ってくれる仲間がいたり、ライバルがいた。
自分たちのビジネス領域に、今後、こんな未来が来るハズ!といった、ビジョンを共有できる仲間がいたり、「あの人よりいい実績を出したい」と思えるライバルがいることって、とても大切だったように思う。
3.自分とは全く異なる価値観やバックグラウンドの人が社内に数多くいて、そんな人達とやりとりしながら、仕事を進めていく経験に恵まれた。
特にこのポイントは、そこそこの規模の会社に勤めないと得られない貴重な経験であり、これが嫌で会社務めを辞めて独立したものの、実際、今の僕の営業や経営に一番役にやっているのが、奇しくもこの経験知である。
この経験は、ホント、若い頃に体験しておくといいと思う。自分と違う価値観の人間とどうやって仕事でwin-winの関係を作っていくか、というのは、どんな世界でも重要なヒューマンスキルだと思う。
最近は「好きな人と仕事する」という価値観がかなり幅を利かせていると思うけど、前提として、自分と異なる価値観の人と一緒に仕事を進めていくスキルがあるかどうかで、自分の将来の仕事の幅は大きく変わってくる。
そして今、僕は独立して、自分の会社を経営している立場に入れ替わった。
稲盛さんのアメーバ経営じゃないけど、成長する組織、強い組織を作るためには、経営する自分の分身(同じ視点で立ち振る舞える)人材をいかに多く育てられるか?というのが、重要な指標となると考えている。
過去、自分がニフティに育ててもらったように、今度は、どうやって僕が自分の会社で人を育てていくべきかを考えなくてはいけない立場になった。
人が成長する会社組織を作るには?
今のところ、僕が考えている仮説は以下である。要は、前述の自分が成長できる会社の3つのポイントの裏返しである。
1.会社や僕が、まずは率先して成長する努力や挑戦をしていること
前述の話の裏返しだけど、会社をこれから成長させるぞ!と本気で、かつ率先して取り組んでいない組織には、成長したいと思う人間はまず集まらない。
2.チーム単位で意思決定をし行動できる権限を与える。お互いのチャレンジをサポートし合える環境を作っていくこと。
個人プレイではなく、チームで成果を出す働き方。そしてできるだけそのチーム内ですべての意思決定と権限を渡せるビジネスユニットを創っていく。
そして積極的な失敗を咎めない、心理的安全性の高い環境を作ることが何よりも大切だと思う。
3.多様な価値観や働き方を是とする、職場環境を作ること
多様な価値観や意見を吸収できる、柔軟性のある職場環境や制度を作って、いろんな価値観をもった人がお互い、いろんな影響を与え合う場を作っていくこと。
人材を育成するというのは、自分の知っているノウハウを一方的に相手にインストールする作業ではなく、常に相互に創発しあう、リスペクトしあえる場や空気を作ることによって、初めて育まれるものだと思う。
あくまで僕が持っているノウハウは、過去のある時点でたまたま成功した体験に過ぎない。技術的な流用性やアイデアの再現性は低い。
そんな過去にこだわるより、過去の常識が通用しないこれからの不確実な未来に対して、悶絶しながらでも、自分たちなりの現実解(少なくとも、自分たちなりの仮説)をひねり出せる、そんなグリッドの効いた人材をどれだけ輩出することができるか?が大切なんだと思う。
それが僕が考える人材育成のイメージである。
最後に。育って旅立つ人も応援できる会社でありたい。
一方、育った人間が自分の会社から旅立っていくこともあると思う。
会社にとっては損失だけど、会社が社会の役に立つ役割の一つとして、人材を育成して、その人材が自分の会社に留まらず、違う会社や世の中に旅立っていくことを、良しとする、という考え方もあるのだと思う。
会社を閉じられた場所にするのではなく、できるだけオープンな人材育成のハブとしても、社会に貢献していく。
そして、成長した元社員とも新しい協業関係を作って、社会に新しい価値を共同で提案していく。
綺麗事かもしれないけど、そう理解しないと、人材育成のポジディブフィードバックを完成させることは難しいと思う。
ITの世界では、「元◯◯出身」というシンジケーションで、新しい事業が作られていく事例が増えてきた。
僕は、元ニフティというシンジケーションで、元同僚の人たちと新しいビジネスを作っていきたいと考えているし、今、経営しているディレクターバンクという会社が将来、そんな人的なネットワークの起点になれるくらい魅力的な場所にしていきたいと考えている。そういった場作りを、これからもコツコツ地道に積み重ねていきたい。
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