昔からお世話になっているある経営者と、久しぶりに会食をした。その方とはおそらく20年くらいの付き合いになる。
もともとITのベンチャー起業を経営されていた方だが、数年前から実家の家業を継いで事業を拡大されているようだ。
実家の家業にITのマーケティングノウハウを活かして事業を拡大されているようだが、彼が言うには、新しいことを始めるのはたいして難しくはない。新しいことを始める裏側で、今までの負債を切り捨てていくことのほうがはるかに難しい、とおっしゃっていた。
具体的には、その会社では新しい自社の商品ブランド開発プロジェクトを立ち上げる一方で、OEM供給事業の撤退を判断し在庫商品の一括除却を決断されたそうだ。この撤退判断がとっても難しかったというお話をされた。
その事業を撤退するということは、関わってきた社員ひとりひとりの処遇や配置転換も考えなくてはならない。そこには当然、反感も生まれる。
PLではなかなか見えないバランスシート上での負の事業資産をどう切り捨てる判断をするか、この類の撤退判断は直近では全く誰も得をしない決断なので、まさしく経営者にしかできない決断力が必要となる。
「挑戦する分野は、やればやるほど良くなるはずだから、実は全く怖くない。それより、現状の負の資産を捨てる判断をするほうが悩ましい」
そうおっしゃっていた。
これは個人の視点でも言えることなのだろう。
今持っている資産は、将来も自分にとって意味のある資産なのかどうか。それを持ち続けることによって、新しいチャンスの芽を自ら摘んでいないだろうか。
逆にいえば、何かを捨てずに挑戦するというのは、単なるパフォーマンスで終わってしまう可能性が高いように思う。
挑戦と撤退というのは、ある意味表裏一体で進めなくては意味をなさないものなのだな、と思った。